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ホンダF1の裏側の話を聴いてきた

世界で戦う人の話を聴いてきた

 

先日、ホンダのF1チームのマネージングディテクターである山本雅史氏とPU(パワーユニット)開発責任者の浅木泰昭さんの講演を聴く機会があった。

 

ホンダがはじめてF1に参戦したのは1964年だというから、52歳になる自分が生まれる前のこと。

 

その後、1988年にマクラーレン・ホンダがアイルトン・セナでワールドチャンピオンに輝き、日本のF1は一大ブームになった。たぶん自分ぐらいの同世代だったら覚えているんじゃないかな。

 

自分は4輪より2輪の方に夢中だったから、その当時はあまりF1に興味はなくて、むしろホンダと言えばGP500で数々の名勝負を演じたフェレディー・スペンサーやマイケル・ドゥーハン、ワイン・ガードナーといった名前を今でも諳んじるぐらい熱中してた。

 

それでもモータースポーツ自体は好きなので、ホンダが2015年からエンジンサプライヤーとしてF1に復帰していたのは知っていたし、また、なかなか勝てなくて各方面からバッシングされたのもニュースで聞いていた。

 

一体、世界最高峰での戦いというのは、どんな世界なのか?

 

そんな興味があって、受講料の1万3000円自腹切って聞いてきましたよ。

 

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今のF1は「エンジン」ではなく「パワーユニット(PU)」

 

F1では、いわゆる「エンジン」と言われる動力装置のことを「パワーユニット」(PU)と呼ぶんだそうだ。

 

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ホンダのPUが展示されていた。迫力あるわ

 

2014年から1.6L・V6エンジンにターボチャージャーと2種類のエネルギー回生システム(いわゆるハイブリッドでバッテリーやモーターが登載されている)で構成され、このシステムをPUと呼ぶ。エンジンで馬力を競う時代から、エネルギー効率をいかに高めるかという時代になった。

 

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PUのイメージ

 

2系統のエネルギー回生? ひとつはアクセルオフやブレーキング時にエネルギーをバッテリーに戻すのはわかるんだけど、もう一つは何だろう?

 

で、資料を見てみると、ターボチャージャーからも電気を取り出しているのね。ものすごく単純に言えばタービンが回ってエンジンに圧縮した空気を送り込むのと同時に回転エネルギーから電気も取り出しているのだ。


随分と時代は変わったものだ。F1の世界もエコの時代には逆らえない。と、いうよりF1がエコを率先して取り入れることで生き残りをかけていると言った方がいい。

 

2015年から参戦したホンダは、昔最強のタッグを組んだマクラーレンと再び契約して参戦することになったんだけど、当初はまったく勝てなかった、というよりまともな勝負にならなかったと言っていい。

 

この当時を山本氏は「心が折れまくった」という。

 

なぜ、勝てなかったのか、勝てないとどうなるのか?

 

F1というのは細かいところまでレギュレーションで決められていて、エンジンの排気量はもちろん、ボアストロークや重量、使えるガソリンの量・エンジンへの流入量など、本当に自由にできる裁量が少なくて、その中で他メーカーより出力をどう出すのかを競っているという。

 

ホンダは2015年の参戦当初、昔に黄金期を築いたマクラーレンと再び組めば、すぐに優勝できるぐらいの楽観的な空気があったという。

 

ところが,パワーも出なけりゃエンジンが壊れまくって、マクラーレンと次第に険悪な雰囲気になっていった。

 

昔の成功体験が時代の変化に鈍感になった最たる事例だ。

 

そこで、マクラーレンから「ホンダのエンジンは最低だ」みたいな話がでて、お互いが不信感の塊みたいになっていった。ホンダから言わせれば、マクラーレンの車体も褒められたものではなかったらしい。

 

なぜ、勝てなかったのか?

 

やっぱり、PUやシャシー、ドライバーなど、それぞれが頑張ってもチームがひとつにならなければ最高のパフォーマンスは発揮できない。どこかでひとつほころびが出て、それを補うどころかけなしあってはチーム運営はままならない。

 

もちろん、このときはホンダのエンジン自体がまともに性能を出せなかったことが原因なんだけど、チーム自体も最悪の状態だったらしい。

 

さらに言えば、ホンダの社内ですら、F1参戦に対し厳し目が向けられていたという。F1参戦は直接利益が出るわけではない。むしろコストセンター(金食い虫)だ。得られるものは「ブランド」という目に見えないもの。それも勝ってからの話だ。

 

山本氏はいう。

 

ホンダは、この新しいレギュレーションになった翌年から参戦している。現在はメルセデスとフェラーリ、ルノーにホンダの4社がPUを提供しているのだが、やはり先行するメーカーに追い付くのは簡単ではない。さらに言えば、F1はヨーロッパを中心とした文化だ。メルセデスが圧倒的に強いのは、レギュレーション作りから関わっていたからだという。だから自分たちが有利なように出来る。

 

そういう意味でホンダはよそ者だ。FIAという興行主としては盛り上がって儲からなければならない。だから日本の企業を勝たせるより、ヨーロッパのメーカーに勝たせた方がいいのだ。さらに言えば、フェラーリのように長年参加しているチームと出たり出なかったりする日本のサプライヤーとは待遇が違うのも当たり前らしい。

 

そういや、スキーのジャンプとかも、ワールドカップで日本人が勝ち始めるとすぐにレギュレーションを変更して日本人に不利なルールにしてしまう。基本的にはヨーロッパの選手に勝ってもらわないと盛り上がらないからなんだな。

 

世の中、不平等で理不尽なことばかりだ。

 

強烈なタスクほど、しんどいけど達成感は大きい

 

それでもホンダは言われっぱなし、やられっぱなしでなく、不仲なマクラーレンとは離婚して、水面下で交渉していたトロロッソと組むことになった。

 

PUもホンダの総力をあげて改善を尽くした。浅木氏は航空機部門(今やホンダは飛行機も作っている)から技術的な支援を受けてタービンを改良したり、モトGPの部門からも助言を得たという。セクター主義の大企業、そしてプライドの高いエンジニアは、兎角他から意見をされるのを嫌がるのだと言うが、もうそんな意地やプライドとか言っている場合じゃなかったらしい。

 

2人に共通してよく口にしてた言葉。

 

「勝つ」

 

「勝ちたい」

 

「勝たなければ」

 

「勝つしかない」

 

世界で戦うプレッシャーというのは相当なものだ。そして、レースは結果だけがすべての世界。たとえゴールライン手前100メートルまでトップを走っていても、そこで止まれば結果は0だ。勝った者が強くて世界で一番なのだ。もちろん2位、3位だってそれなりに価値はある。だが1位とそれ以下の間には大きな壁があり、乗り越えた者だけが賞賛されリスペクトされる。

 

こんな強烈なタスクが与えられた仕事に関わる人って、もちろん毎日が緊張の連続で気が休まる時がないのだろう。

 

それと引き替えに勝ったときの達成感も半端ないんだろうな。

 

2019年にはレッドブルにPUを供給することになり、現在までに2勝をあげている。最近では社内の雰囲気も変わってきて、みんなが応援してくれるようになったという。

 

ぜひ、今月の鈴鹿の日本グランプリでも表彰台の高いところに登って欲しいものだ。

 

 

 

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