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涙の閉店ガラガラ

 

昨年末。20年以上通い続けたバーが閉店した。

 

マスターからLINEで「ブル。もう決めた。体力・気力の限界。年内で店をたたむ決心をしたよ」と連絡があったのは、去年の10月だった。マスターはいつの間にか還暦を過ぎ、もう65歳になっていた。

 

ここ数年はコロナで数か月休業している期間もあったし、客足もばったり途絶えて、店に入ってから閉店まで自分一人なんて日もたびたびあった。常連客もみんな歳を取り、来店の頻度も減ったと言うし、昔は近所のスナックやラウンジのママやホステスが店を終わったあとにアフターで客とよく来ていたが、そういう客もいつの間にか見かけなくなった。

 

随分と環境が変わりマスターも、もう店を続けるモチベーションが尽きたのだろう。

 

マスターは閉めるって決めてから表情が明るくなった。

 

 

*  *  *

 

そのバーは、仕事で知り合った大学の先生の行きつけで、打ち合わせか何かの帰りに連れていってもらったのが最初だった。それから一人でも通うようになり、マスターとも懇意になって会社の部下もよく連れていった。

 

その先生とは、それこそ20年以上前に自分が市町村の各種計画策定のコンサルをしていた時に知り合った。先生は学識経験者として策定委員に名を連ね、調査や住民との懇談会などに一緒に出かけてヒアリングしたり、調査結果についていろいろアドバイスをもらい、計画書の素案をチェックしてくれたりした。

 

それから、いくつかの市町村の計画を一緒に手がけ、公私ともにつきあうようになった。温泉やスキーに出かけたり、先生の所属する学会に推薦してもらって会員にもなった。いろいろ経緯があって札幌で行われた学会で自分が発表することになったときは、「自分が学会で発表!?」なんてうろたえたが、先生が発表原稿を丁寧に添削してくれて無事に終えることができた。学会が終わったあとは二人で小樽まで出かけて寿司を食った。

 

先生が10年ぐらい前に関東の大学に転任してからは会う機会がめっきり減ったが、ときどき東京出張に合わせて飲んだり、先生がこちらに来る機会があると、いつものバーで待ち合わせして、そのあと先生が大好きなカラオケにつきあった。

 

先生は自分より5歳年上。50歳も過ぎればほぼ同年代と言っていい。

 

去年の夏に突然先生から「鮎を食べにヤナに行きたい」と連絡があり、わざわざ岐阜まで来て、マスターと自分の3人で鮎を食いに行った。

 

 

※ヤナとはこんなところです ↓

icotto.jp

 

コロナのこともあって、先生に会うのは2年ぐらいぶりだった。久しぶりに会った先生は、随分痩せて背中も丸くなり、「なんか老けたなー」という印象だった。

 

「どっか悪いの?」と聞いてしまうほどで、先生は「歳を取ればどっか悪くなるもんだよ」と大して気に留めてなかったが、お酒を飲む量は控えめで、自分から鮎が食べたいと言っておきながら、「食べきれないから、ブルとマスターで食べてよ」と言って自分の皿を突き出した。ふつうに1人前でも多いのに、この時は、もう3年は鮎は見たくないぐらいに鮎を食い尽くした。

 

*  *  *

 

年が明けてバーは閉店したが、マスターとはLINEなどでやり取りは続いている。店の後片付けをしているとか、店で使っていたファンヒーターいるか?とか。もちろんくだらない内容のやり取りも。

 

基本、マスターはツンデレで、客を突き放すようなことをズケズケというが、それでいて気にもかけてくれる。

 

先生にも、毒舌メールをときどき送っては、「こんな返事が返ってきた」と楽しそうに報告がくる。

 

「まあ、あの先生のことだからね(^_^;」なんて返信している。が、つい最近「先生にLINEしたけど既読がつかない」と言ってきた。

 

先生は頑固にガラケーを使い、LINEは仕事用のタブレットで最近はじめた。

 

「たぶん、タブレットだから、きっとアプリを開いてないんだよ」と返事をしたが、

 

今度は「携帯のメールも返信ない」と来た。

 

そんなにレスポンスが早い人ではないし、ちょっとモノの扱いも雑だから、「どっかに携帯落として壊したんだよ。そのうち来るよ」なんてのんきな返信をしたが、どうも気になる。

 

「そういや、夏に会ったとき、ずいぶんと痩せてたしなぁ。入院でもしたか?」

 

会社の昼休みに、先生の携帯に電話をした。呼び出し音が続く。すぐに電話に気づく人ではないので、しばらく鳴らし続ける。すると・・・

 

「もしもし」と女性の声がした。

 

あれ? 番号間違えたかな? でも、登録してる番号だし????

 

「あの~ この携帯は、○○先生の携帯ですよね?」

 

「そうです。わたしは○○の妹です。そちらはどなたでしょうか?」

 

「実は先生が岐阜に住んでいたときに、一緒にお仕事させていただいたもので、○○株式会社のブルと申します」

 

「そうでしたか。兄がお世話になりました」

 

「行きつけのバーも一緒で、そのマスターから先生の返信が来ないって連絡があって、気になったものですから電話いたしました」

 

「実は・・・」

 

「はい」

 

「昨年の年末に、兄は他界しました」

 

「えっ・・・・」

 

しばらく沈黙が続く。

 

「どこかお体悪かったのですか?」

 

「入院していたのですが、年末に急に容態が急変してそのまま息を引き取りました。お葬式も年が明けてから行ったばかりで。それに兄とはあまり連絡を取っていなかったものですし、独身でしたから、兄の知り合いとかよくわからなくて。どなたにも連絡できずにいたのです。こうして電話をいただけて助かりました」

 

先生は生涯独身で、それほど友だちが多い方ではない。女にもモテる方ではなかった。

 

「そうでしたか。夏に岐阜で一緒に鮎を食べたんです。その時、ずいぶん痩せていて、どこか具合が悪いのかなって、実は思っていたんです」

 

「秋に入院して。そうでしたか。岐阜まで行ったんですね」

 

続けて

 

「がんでした」

 

「そうでしたか。そんな気も少ししました」

 

そのあと、少し妹さんと話をして、もし、仕事上で何かあれば郵便物は実家あてに送ってくれればいいと言い、妹さんの連絡先も教えてもらった。

 

なんか実感がなかった。ヤツが死んだなんて。

 

*  *  *

 

すぐにマスターに連絡した。

 

でも出ない。10分おきぐらいに何度か電話したが出ない。

 

「きっとゴルフだな」

 

LINEで「大事な話があるから電話ちょうだい」と打った。4時から打ち合わせがあるので、それ以降は電話に出れないからともつけ加えた。

 

4時5分前にマスターから着信。

 

「どうした?」

 

「マスター、先生死んじゃったよ・・・」

 

「そうか。なんか嫌な予感がしたから、ゴルフ終わるまで電話しなかったんだよ」

 

急に涙があふれてきた。

 

「なんで死ぬの? 一緒に鮎食ったばかりじゃん」

 

「あんた、打ち合わせあるんだろ。また、あとで連絡ちょうだい」

 

「わかった」

 

涙を袖で拭い、なんとか気を取り直して打ち合わせに向かった。

 

*  *  *

 

まだ60歳。退職金も年金ももらわず死んでしまうなんて。引退したら一緒に温泉でも浸かって旨いもの食おうって言ってたのに。

 

同年代の友人を亡くすのは、まだ先だと思っていた。

 

人生100年時代とはいうけれど、実際元気で過ごせるのは男性で70代までという。それに平均値なんて意味はなく、個々人一人ひとりを見れば、どれだけ健康で長生きできるなんて誰もわからない。

 

最近感じることがある。得るものより失うものの方が多くなってきた気がする。お袋も数年前にがんで亡くしたし、数少ない息抜きの場所も閉まってしまい、先生まで・・・

 

日常にあると思っていたものが、少しずつなくなっていく。野球で例えれば6回裏が終わって終盤の7回に突入した感じだ。

 

これから、やりたいことはつべこべ理由をつけずやっておこう。やりたくないことはスパッとやめてしまおう。

 

9回が終わってゲームセットが来たとき、勝ったと思える人生にしよう。絶対先生より長生きしてやる。

 

あんたの分まで楽しんで人生を終わらせてやるから。

 

もう、高いキーを裏声になりながら絞り上げるように歌う姿も見られないのか。

 

いや、墓の中でも同じように歌っているのかな。

 

頼むから静かに安らかに眠ってくれ。先生・・・ありがとう。

 

 

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