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『たゆたえども沈まず』に導かれて神戸で大ゴッホ展を見てきた話

 

正直、自分に美術作品を鑑賞する趣味はない。

 

いや、趣味と言うより、彫刻や絵画を見てそこから何かを感じ取ったり、作品の意味を深く考えたり、その技法に感嘆したり、という感性も知識も持ち合わせてはいないのだ。

 

ただ、少し前にAudible(オーディオブック)で、原田マハの「たゆたえども沈まず」を聞いたとき、ゴッホの人生と作品に興味をもった。

 

 

 

 

それまでもゴッホという画家の名前ぐらいは知っていた。有名なひまわりの絵を描いた作者だということと、彼が生きている間はあまり絵は売れず、没後に作品が評価されるようになったというぐらいの浅い知識はあったけど。

 

*  *  *

 

この「たゆたえども沈まず」は、19世紀のパリを舞台にゴッホと弟のテオ、そして日本人の画商が紡ぎ出す物語だ。

 

19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが"世界を変える一枚"を生んだ。 読み始めたら止まらない、孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。

 

フィクションと言っても、ゴッホ、テオ、テオの妻であるヨー(ヨハンナ)、浮世絵をヨーロッパに広めた画商の林忠正は実在の人物で、かなりの部分は史実に基づいて描かれている。

 

細かな心情や交わされた会話のやり取りは、もちろん作者が考えたフィクションなのであるが、史実の骨格をしっかり捉えて描かれているからこそ、フィクションの部分がよりリアルに感じられる作品で、聞きながら物語に深く吸い寄せられた。

 

実際ゴッホはかなり精神的に不安定な人物だったようで、自分の耳を切り落としたり、最後は自ら拳銃で・・・という形で生涯を終える。

 

そこから興味を持って、ゴッホの画集を眺めたり、ネットで彼の作品や人物について調べた。

 

彼はなぜ、あのような作品を生み出したのか?

 

何となくだが、その背景を知り、人となりが僅かながらにわかると、その作品の見え方も違ってきておもしろかった。

 

自分は「たゆたえども沈まず」の表紙に使われている「星月夜」という作品に強く惹かれた。

 

そして、なぜ、ゴッホの絵は人の心を捕まえるのかが気になりだした。

 

ゴッホの「星月夜」を詳しく解説!大きな糸杉の意味とは ...

ゴッホ作品集

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*  *  *

 

この夏に会社を設立したのは、以前の記事に書いたのだが、まあ思い通りにはいかないもので、なんやかんやとバタバタしたり、うまくいかずに落ち込んだり・・・そんなことで、なかなかブログを書こうって気持ちにもならずに、しばらく更新が滞ってしまった。

 

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*ちなみに融資は無事審査を通って借りることができました💦

 

あれこれジタバタしたが、ようやく事業の方向性だとか、何に向かって事業を進めるのかが定まってきて、営業活動を本格的にはじめた。

 

まず、以前から付き合いのあるお客さんを回ろうと、先日は関西方面に出かけた。

 

京都、大阪とまわり、神戸で一泊した。

 

翌朝、三宮の駅に向かうと「大ゴッホ展」のポスターが目にとまった。神戸市立博物館で開催しているらしい。スマホで地図アプリを開いて場所を確認すると、駅から歩いて12分と表示された。

 

grand-van-gogh.com

 

この日の予定は午後からアポが2件。午前中は飛び込みで回ろうかと考えていた。

 

「午前中なら行けるかな」

 

平日の午前中だし、そんなに混雑もしていないだろう。ゴッホの絵を実際に鑑賞できる機会なんてめったにない。

 

駅の改札をスルーして、地図が示す港の方面へ向かう道へと歩き出した。

 

9時30分が開場らしい。歩き始めたのは9時ちょっと過ぎ。余裕で1番に入れるだろうと思っていたら・・・

 

なんだか同じ方向へ歩く人が多い気がする。

 

やがて神戸市立博物館が見えてくる。

 

 

「なんだよ! 入場待ちの列ができているじゃん」

 


まさか、平日の午前中に列ができるほど人が来るとは思いもよらなかった。さすがゴッホだ。大人気だ。

 

土日は予約制でチケットが無いと入場もできないらしい。むしろ平日だからフラッと見に行くと決めても大丈夫だったみたい。でも、こんなにみんなゴッホの作品が見たいのか?


チケットを購入する列に並んで、幸い30分ぐらいで買うことができた。もう10分遅ければ1時間待ちは覚悟しなければならなかっただろう。それほど続々と人が列に加わる。

 

 

展示されている絵は74点。

 

ゴッホの作品のほかに、ルノワールやモネ、ピサロの絵も展示されていた。

 

展示室も人で一杯だったが、思ったよりも間近でじっくり鑑賞できた。ゴッホの初期の頃の作品は暗くどちらかと言えば素朴な作品が多い。

 

はじめて目にするゴッホの作品。100数十年前に生きた画家の作品が目の前にある。印刷物やモニター越しに見るのとはまったく違う。筆遣いや油絵の具の凹凸。これは美術鑑賞初心者の自分が見ても、ゴッホの息づかいが聞こえてきそうなほどのホンモノの力を感じることができた。

 

何枚かの作品は写真撮影が許されていた。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
《石膏像のある静物》
1887年後半、油彩/カンヴァス、55×46cm

 

彼は何枚か自画像を描いている。展示されていた1枚はパリ時代に描かれたものでスーツを着ている作品だ。比較的明るい色調で、このときの彼の精神は安定していたんだろうな。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
自画像
1887年4-6月、油彩/厚紙、32.4×24cm

 

そして、この作品展の目玉であり、ゴッホの代表作の1つである「夜のカフェテラス」にたどり着く。そこだけは他の作品とは別に区切られた、特別なスペースが用意され、多くの人が鑑賞の順番の列を作っていた。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ
夜のカフェテラス(フォルム広場)
1888年9月16日頃、油彩/カンヴァス、80.7×65.3cm

 

紺色の夜空に星が描かれ、黄色いオープンテラスのカフェが描かれている。19世紀の日常の夜の風景なんだろう。夜空と暗い街並みの中に黄色く明るいテラス席が輝いて見える。荒々しさと優雅さが同時に描かれているように見えた。この風景にゴッホはどんな気持ちを込めて表現したのだろう?

 

そんなことをちらっと考えながら、あまりの人の多さに「夜のカフェテラス」の前から早々と退却する。

 

*  *  *

 

かなり見応えがあった。これだけの人が押しかけるのもわかる。モネやルノワールの作品もよかった。

 

今回はオランダのクレラー=ミュラー美術館からやってきた作品で、「星月夜」の展示はなかったのが残念だったが、これはニューヨークの美術館まで見に行くしかないみたいだ。

 

ゴッホの世界は奥深いみたいだ。さまざまな研究者が彼や彼の作品を論じていて、関連する書籍も多い。それだけ惹きつける何かがあるんだろう。その片鱗にちょっとだけ触れたような気がした。そしてゴッホが日本の浮世絵に強く惹かれたのとは逆に、後世の日本人が彼の作品に強く惹かれるなんて夢にも思わなかっただろうな。

 

行ってよかった。

 

売店では、いろいろな関連グッズが売られていて、ポストカードを2枚買った。これをフレームに入れて机の上に飾ろう。

 

午後からの商談に向けて、朝、スルーした三宮の駅の改札まで急ぎ足で歩いた。天気もよく神戸の街並みを吹き抜けていく少し冷たい風が心地よい。久しぶりに上機嫌だ。

 

世の中、生きていくのに難しいことも多いし、不安なことも数多ある。でも、ゴッホの人生に比べたら、まだまだベタ凪な人生だなって。単純に思った。

 

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