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仕事上で知り合った人と本当の「友人」になれるのか?

 

仕事上で知り合い、もう四半世紀以上(つまり25年以上)付き合いのある人がいる。自分から見ると自社の商品を買ってもらう顧客であるが、相手から見るとこちらの商品を作る専門性や知識・技術・情報などのリソースは必要不可欠で、どちらかといえばビジネスパートナーという関係に近い。

 

30代前半で知り合い、偶然にも同い年で、大学は違うが学部は同系ではじめから親近感はあった。さらに当時お互い若く、業界的な立場は下っ端で苦労も多かったので、打ち合わせの後によく安居酒屋で酒を飲んでは愚痴ったり、時に将来の夢や希望を語ったりしていた。

 

何度か仕事を一緒にしているうちに気の置けない仲となり、歳を重ねていくとそれぞれ立場も上がり、人脈も広がっていった。難しい案件があっても互いに助けたり、助けられたりしながらうまく仕事も回っていった。

 

気が合うといえば気が合うし、仲がよいといえば仲がよい。何度も一緒に飯を食い、酒も飲んだ。ただし、あくまでも仕事上の付き合いであり、住んでいる場所も東海地方と関西地方で多少距離があることもあって、プライベートでわざわざ会ったりすることはこれまでなかった。

 

ところがだ。

 

先日、彼から「バイク買おうと思うんだけど、何がいいかな?」といきなりLINEが来た。

 

ええ!!! バイクの免許持ってたの?

 

「大型の免許取ったんやね」

 

「ブルさん、バイクのこと詳しいやろ?」(もちろんブルさんとは呼ばないけど)

 

「まあそうだけど」

 

自分の趣味がバイクで、北海道までツーリングに行ったりしたことは話していた。彼も学生時代に中免だけは取って250のバイクに乗っていたというが、それほど興味があるような感じではなかったので今までバイク談義に花が咲くことはなかった。

 

*  *  *

 

「いきなりどうしたの? 大型二輪の免許なんか取って」

 

「もう俺ら57やん。なんだか身体の動く内にやりたいことやっておかないと後悔する気がしてな。前からバイク乗りたかったんやねん」

 

お互い子どもが2人いるが、もうどちらの子どもも成人して社会人として働いている。子育ては終わった。これからの人生、やり残したことに時間を使いたい。そう思ったそうだ。

 

その気持ちはよくわかる。

 

自分も同じだ。

 

「そうか。そうだよね。健康寿命考えたら、大型バイクなんかあと10年乗れるかどうかわからんもんね」

 

 

 

*  *  *

 

もうすでにいくつかのバイク店を見て回っているようで、候補は2台あるようだ。1台がカワサキのNinja1000SXで、もう一台がBMW R1250RSという。それぞれディーラーの認定中古車みたいで、すでにいろいろなオプションも装備されているという。

「どちらもいいバイクだよね。認定中古車だから事故車とかはないと思うけど、タイヤの減り具合とか、ブレーキパッド、バッテリーなどの消耗品を確認して。交渉次第では新品に換えてもらえるから。どちらがいいかは好みだけど、Ninjaは4気筒でよく回エンジンでめちゃくちゃパワーあるバイク。BMWはボクサーツインに駆動系がシャフトドライブっていって、ちょっとクセのある乗り味だけど、重心低くて安定している」

 

実はどちらも乗ったことないので、とりあえずわかる範囲で情報提供だけしておいた。すると数日も置かずに「これ買いました!」とBMW R1250RSに跨がった写真が送られてきた。

 

行動ハヤ!( ゚Д゚)

 

*  *  *

 

もう乗りたくてしょうがないらし。ツーリングのお誘いLINEが来る。とりあえず今回はバイクのお披露目ということで、お互いの住んでいる場所から中間地点の滋賀県大津市あたりの道の駅で待ち合わせすることになった。

 

そういえば、彼と完全プライベートで会うのは初めてだな。

 

当日。待ち合わせ場所まで2時間半程度。9時集合。少し余裕を見て6時過ぎに家を出た。

 

8時頃、PAで休憩を取った。あと30分ぐらいで到着できるぐらいのところまで来ていた。お茶でも飲もうとペットボトルのフタを開けながら何気なくスマホを手に取ると「到着しました!」とメッセージが入っていた。

 

 

オイオイ。まだ1時間前じゃないか。

 

「早いよ~💦 あと30分ぐらいでそっちに着くから待ってて」と返信して、トイレだけ済ませてPAを出た。そうだ。彼は時間に遅れたことはない。いやむしろ約束の時間より30分は早く来る傾向がある。めちゃくちゃせっかちなのだ。うっかり忘れていた。

 

 

 

*  *  *

 

ゴールドのR1250RSは、見るからにツアラー仕様で初めて近くで実車を見たが、第一印象は「でかいな~」

 

大きいスクリーン(社外品)にサイドパニア、ハンドガードまで付いている。これだったらどこまででも走って行けそうだ。

 

 

隣に並べたボンネビルT120が中型車に見えるよ。

 

「まだ、慣れないし、初めての大型だから緊張するわー」という。「ブルさんのバイクはキレイだね~ 昔からあるデザイン、完成されたデザインだね」と褒められる。

 

普段、あんまり褒めたことないのに。バイクは褒めるんか(笑) 

 

ツーリング前に、インカムがあると楽しいからと、自分が買ったJESIMAIKをおすすめしたら購入しておいてくれたようだ。

 

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ここから北上して「びわ湖テラス」へ行こうと考えていたが、どうもこの日の天気は北上すると降水確率が高くなるので、たぬきの置物で有名な信楽に行くことにした。

 

自分が先頭でいつも通りのツーリングペースで走る。インカムでつながっていると声を近くで聞いているから、すぐ後ろにいるものだと錯覚しがちであるが、まだバイクに慣れない彼にはペースが速かったようで、振り返ると遙か後ろを走っていた。

 

「コーナーのたびに離されていくよう😭」

 

そこからはペースを落として、途中の峠道では「2速キープでいいよ」「路面荒れているから気をつけて」「外側は枯れ葉が積もっているから右コーナーは膨らまないようにね」など、アドバイスをしながら走る。インカムって、初心者やバイク久しぶりのリターンライダーと走るとき、いろいろと教えながら走ることができるからスゴく便利だ。こういう使い方もあるんだと再認識した。

 

 

信楽では、いくつも立ち並ぶ陶器屋さんをのぞいたりしながら街をブラブラ歩いた。

 

 

お昼になり、信楽っぽいたぬきの置物が沢山並んだうどん屋さんに入って飯を食う。

 

 

どうしても仕事の話が多くなる。25年も一緒に仕事して山も谷も一緒に越えてきた。最近は不景気な話も多い業界だ。そして、もうそろそろ仕事も先が見えてきた。いくつまで働きたいのか、いや、いくつで辞めるのか。その先どうするのか。そんな話になっていた。同い年だからこそ、一緒に同じように歳を取った。還暦も目の前に見えてきた。

 

「仕事辞めたらバイクで北海道に行こう! 九州もいいよね。いろんなところをバイクで走ろう!」

 

いままで仕事上の付き合いだった彼と、バイクを通して少し距離が縮んだような気がした。楽しい時間だった。これから趣味を通した付き合いに変わっていくのだろうか。

 

「いいね。行こう。北海道」 そう返事は返したが。。。

 

*  *  *

 

仕事上の付き合いは、いくら気が合っても心のどこかで「仕事」だからと割切ってうまく付き合ってきたところも無きにしも非ず。ビジネスとして利害が一致していたからこそ、それが普通と考えていた。たとえ長い付き合いだとしても、その時間は学生時代や地元の友人として過ごした時間とは少し違う。

 

仕事の取引先でとても気の合う人がいて、とても仲がよいと思っていても、仕事上の関係がなくなれば疎遠になるなんてことは誰しも経験することだろう。仮に家が近所で趣味も合えば別なんだろうけど、そういう人と巡り会う機会は少ない(自分は少ないがいないこともない)。

 

もし、仕事を辞めたり、もしくは転職して違う業界で仕事をするようなことになったとして、そこから改めて友人として利害関係もなく、これまであった遠慮や心理的な壁を取り払って、本当の意味での「友人」としての付き合いになれるかどうか。それには、お互いの人間性が試されるような気がするんだよなぁ。

 

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