旅に出たい。
こころから思った。
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日常生活は単調で退屈なものだ。いっぽうで仕事や人間関係はストレスフルで気が滅入ることも多い。
特にここ数か月はコロナの影響で、自粛という名の国民総軟禁状態でどこへも出かけられないし、出かけたら自粛警察に取り締まられるという恐ろしい事態になった。何か思惑がある国やマスコミの情報操作とも思えなく無いが、国に決められたことはきっちり守り、かつ、マスコミの情報を鵜呑みにして、周りと同じ行動を強いる、いまの社会の有り様は実に息苦しい。
普段だったら月に2~3回ある出張すらなくなって、毎日会社のデスクの前に座ってできる仕事だけしているという状態にもうんざり。幸いクルマ通勤なのでテレワークとかリモートワークにはしなかったが、これが家で仕事するようになれば確実に精神が崩壊する。
仕事でも、プライベートでも、いろいろなところを飛び回っているほうが性に合う。
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「旅」というのは、「自由」と「不便」を楽しむものだと自分は思っている。時には、自らを過酷な状況に追い込み、それさえも楽しむ。それが「旅」の醍醐味だ。テーマパークや観光名所を巡る「旅行」とは全く別物だ。
そういう意味でバイクは旅の道具として非常に相性がいい。自分の周りに遮る物がなく、剥き出しのカラダ全身で、その土地の風、雨、日差しを受けとめられる。自分がバランスを取らなければ自立して走ることもできない乗り物。
もちろん、徒歩でも、自転車でもいいが、バイクは行動範囲が一気に広がるので自由度が高まる。
旅への欲求は、自分の奥底から湧いてきて、どうにもしようもない欲求だ。 「旅」は「こころの解放」と言い換えてもいい。
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今年も北海道をバイクで走ろうと、4月の時点で7月に舞鶴から小樽に行くフェリーを予約した。7月になればコロナも落ち着いているだろうと楽観視していた。5月に非常事態宣言も解除され、6月には都道府県を跨いだ移動も解禁された。
旅に備えて新しいバッテリーやエアフィルターなど、そろそろ交換時期の部品も揃えて着々と準備は進めていた。
ただ。
心の中でモヤモヤする気持ちが吹っ切れない。
去年の北海道ツーリングは夏休みに2日間の有給を加えるだけでよかったが、今回は土日・祝日を除いて7日間の休みをとって10日間の予定を組んでいた。何もなくても、2週間近く会社を休むことは正直気が引ける。
その上で新型コロナウィルスの感染拡大は、なかなか収束する気配がない。コロナ騒動がどこか演出されているような疑念は拭い切れないが、全く気にならないかと言えば嘘になる。こんな時期に、さらに感染が広がる北海道に行くなんて、いくら気をつける、感染予防対策すると言っても周りは快く思わない。
どうしても、心から旅を楽しむ自分の姿が想像できない。
そこで飛び込んできた、熊本や鹿児島の大雨による水害。これが引き金になった。
「日本中が大変なときに、仕事休んでツーリングなんかに出かけている場合か?」
今年はタイミングが悪すぎる・・・
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フェリー会社の予約画面にログインして予約していた便のキャンセルボタンを押す。あっさり予約が取り消される。実に簡単だ。これで中止だ。
今年の夏の旅は中止だ。
そこからは、余計なことを考えないよう一気に作業した。
帰りのフェリー、小樽に着いた晩に泊まるホテルのキャンセル。
そして、今回はバイクで走るだけではなく、北海道の自然や文化を丸ごと感じたい。そう考えて、大雪山への登山と糠平湖に架かるタウシュベツ川橋梁をめぐる計画もしていた。
タウシュベツ川橋梁|旧国鉄士幌線アーチ橋梁群|施設ガイド|北海道 上士幌町
その基地となるホステル(ゲストハウス)にもキャンセルの電話を入れる。
「本当にすみません。いつか必ず大雪に登ります。その時はお世話になります」と伝えると
「お待ちしています。山はいつでもありますから」と、たぶん若いであろうホステルのオーナーは優しく応えてくれた。
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3ヶ月間、練りに練った計画は実現できなかった。けど夢は見れた。空想の世界で走り回って山に登って・・・それだけでも案外楽しいもんだ。
ただ、計画を計画だけでは終わらせない。
全てのタイミングが揃った時。
出かけよう。