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名古屋オートモーティブワールドで多田哲哉氏の講演を聞いてきた
商品企画や営業、バイヤー、エンジニアなどのお仕事をしていると、一度ぐらいはビッグサイトなどで各種の展示会を企画するリード主催の展示会に参加されたことがあるのではないでしょうか。1回参加すると、以降これでもかと各種展示会の招待状を送りつけてきます。
関係ない業界の展示会の案内も多いのですが、ときどき「おっ!」という人の講演があったりするので、案外ないがしろにできません。
今回、直接仕事に関係する訳ではないのですが、ポートメッセなごやで開催された自動車関連の展示会「名古屋オートモーティブワールド」に行ってきました。
目的はトヨタ自動車 GAZOO Racing Companyのチーフエンジニア(CE)多田哲哉氏の「新型スープラを造る 時代を超えた継承と想像」という講演を聞きにいくためです。今回は講演といっても、なんと日経ビジネスでおなじみのフェルディナント・ヤマグチ、(通称フェルさん)との対談形式ということで、大変楽しみにしてました。フェルさんは、言いにくいこと、聞きにくいこともズバズバ言って聞いて記事にしてしまう、広報泣かせの覆面コラムニストです。
フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える:日経ビジネス電子版
多田さんといえば86/BRZ
さて、車好き、特にスポーツカー好きな方なら名前ぐらいは聞いたことがあると思うのですが、多田氏は86/BRZの開発主査をされた方で、いわば86/BRZの生みの親です。
photo:「自前主義はもう限界」新型スープラ、多田哲哉CEが込めた想いと夢…名古屋オートモーティブワールド2019 | レスポンス(Response.jp)
その多田氏が今年2019年5月に発売された新型スープラも手がけました。
よく知られているのは、新型スープラはBMWとの協業で開発されたクルマです。あのトヨタでさえ、いまや自前で1からスポーツカーをつくるは難しいといいます。巨額の開発資金がかかるわりにはセールスが見込めないのがスポーツカーの世界。ネジ1本の単価まで削ってコストダウンするトヨタですから、利益が見込めないスポーツカーを自前ですべて開発して生産するという経営判断は成り立ちません。その分のリソースをより売れるクルマに振り分けたいのは当然です。
それでも、トヨタがスポーツカーを作るのは、豊田章男社長の存在が大きいでしょう。自らもハンドルを握るレーシングドライバーですからね。スポーツカーに関して言えば、現在は他の役員を通さず最終的に章男社長が決断するらしいです。
例えば、86のアクセルペダルが短いというユーザーの声があったといいます。ヒールアンドトゥがやりにくいと。なぜ、こんなにペダルを短くしたのかというと、フロアマットを3枚重ねてもアクセルペダルが引っかからないようにしろというオーダーが他の役員から出ていたらしいのです。
いかにも万人向けの、あらゆる使用状況を考え対処する思考がこびりついて割り切りができないのが、トヨタというメーカーだと自嘲気味に言っていました。
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BMWをパートナーとして選んだ理由
章男社長は、モータースポーツを文化として継承していきたい。そんな思いの表れがスープラの復活につながったのだと思います。そして実現するためには、これまでの常識と手段を選ばず、他社と組むことによって開発費やスケジュールを短縮してコストを下げるという道を選びました。
86/BRZもスバルとの協業で開発され、生産はスバルで行っています。トヨタとスバルは資本関係がありますが、それでも開発には両社の文化やフィロソフィーの違いでかなり難航したと聞きます。
スープラはBMWという資本関係もないドイツの会社と組む訳ですから*、相当な苦労があったでしょう。開発が始まったのは2012年だといいますが、最初は「今どきピュアなスポーツカーなんて市場が求めていないだろ」とBMW側からいわれ、話し合いだけで1年が過ぎたといいます。
*トヨタがBMWと組んだのは、スープラのアイコンである直列6気筒エンジンをBMWが持っていたからだといいます。
それでも、BMW側の担当役員が交代したり、エンジニアたちがミーティングを重ねる中で意思疎通が生まれ、最終的にトヨタはクーペのスープラ、BMWはオープンカーのZ4というクルマを誕生させました。
photo: 「自前主義はもう限界」新型スープラ、多田哲哉CEが込めた想いと夢…名古屋オートモーティブワールド2019 | レスポンス(Response.jp)
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photo:【BMW Z4 新型試乗】スープラとはまったく違う運転感覚…渡辺陽一郎 | レスポンス(Response.jp)
自分も仕事をして最近思うのですが、技術も流行もめまぐるしく変化していく環境の中で、一つの会社で製品なりサービスなりを作り出していくには限界があると感じています。異分野の他社と組むことでしかイノベーティブな新たな価値が創造できないとも思っています。しかし実際にやろうと思うと、それはそれで社内でもコンセンサスを得るのが難しい状況です。その上でトレンドを敏感に感じ取って適切な相手と交渉し、実行できる経営者がいる会社しか、この先残っていかないんだろうなと、トヨタ然り、様々な会社を見ていて思います。
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